相続税申告の2割が税務調査に!?相続税の税務調査率はとても高い!
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相続税の申告と聞くと「税務署に調査されるのでは?」と不安を抱く方も多いのではないでしょうか。実際、国税庁のデータによると相続税の税務調査率は他の税目に比べて非常に高く、約5人に1人が調査や確認を受けています。所得税や法人税の調査率が数%にとどまるのと比べると、その差は歴然です。なぜ相続税だけがこれほど注目されるのでしょうか。本記事では、相続税の税務調査率が高い背景や、調査が入りやすいケース、そして実際に申告漏れとして指摘されやすい項目について詳しく解説します。
相続税は税務調査の対象になりやすい?
「相続」と聞くと、税務調査で多額の財産漏れを指摘されたりタンス預金を見つけられたりといったイメージはないでしょうか?相続税の申告は他の税金に比べても税務調査の対象になりやすいと言われていますが、国税庁が公表している最新データ(※参考資料1)を見ると、実際に調査率が高いことがよく分かります。
令和5事務年度(令和5年7月~令和6年6月)の実績を見てみると、調査割合は以下のようになっています。
所得税
調査件数約4.8万件÷申告件数約668万件=約0.7%(実地調査のみ)
法人税
調査件数約5.9万件÷申告件数約318万件=約1.85%(実地調査のみ)
消費税(個人)
調査件数約17.1万件÷申告件数約275.5万件=約4.4%(実地調査+簡易な接触)
相続税
調査件数約2.2万件÷申告件数約12.5万件=約17.8%(実地調査+簡易な接触)
つまり相続税については、「おおよそ5人に1人」が税務署から何らかの形で調査や確認を受けているという計算になります。簡易な接触が含まれていないとはいえ、他の税目が数%程度であるということを考えると、相続税の調査率がいかに高いかがわかります。
※以下は参考資料
https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/shinkokuhyohon2023/pdf/R05_gaiyo.pdf
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2024/shotoku_shohi/pdf/shotoku_shohi.pdf
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2024/hojin_shinkoku/index.htm
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2024/hojin_chosa/pdf/01.pdf
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2024/shotoku_shohi/index.htm
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2024/sozoku_chosa/index.htm
なぜ相続税は税務調査の対象になりやすい?
では、なぜ相続税は調査の対象になりやすいのでしょうか?
相続税の税務調査率が他の税金と比べて高い理由には、以下の理由などが挙げられます。
取引が多岐にわたり、把握が困難であるため
亡くなった人(被相続人)が遺した財産は、預貯金だけでなく不動産、株式、有価証券、生命保険など多岐にわたり、それぞれを正確に把握するのが難しいため、申告のもれがある可能性が高いためです。
申告内容が個人の判断に左右されるため
非上場株式や土地の評価額は専門的な知識がないと評価が難しく、申告者の判断によって評価額が変動する可能性があるため、税務署の認識とすれ違いが生じやすいという傾向があります。
調査年数が広いため
所得税や法人税の税務調査は通常数年間の取引が対象となりますが、相続税の調査では亡くなった人(被相続人)の過去の預金の動きや財産状況を詳細に確認します。特に生前贈与や名義預金といった、財産を隠す意図があると疑われる事案がないかについては,過去にさかのぼって広範囲にわたる調査が行われるため、申告の誤りがあったり、相続人が知らない事案があったりする可能性があるためです。
相続税の税務調査が入りやすい人の特徴とは?
税務調査は、すべての申告者に対して無差別に実施されるわけではありません。相続税には大きな控除が設けられているため、そもそも相続税の申告自体が不要な方も多いです。そのうえで、申告内容に不審な点がある場合や税務署が把握している情報と申告内容が大きく異なる場合に調査の対象として選定されます。特に以下のようなケースは税務署が注目しやすい傾向にあります。
遺産総額が多い人
高額な財産を相続した人は、申告漏れの金額が大きくなる可能性も高いため重点的に調査されます。
海外資産を保有している人
海外の金融機関の情報は国内の税務署が把握しにくいため、国外財産調書などの提出義務があるにもかかわらず申告されていない場合や、申告内容に不明瞭な点がある場合、特に注視されます。
相続税の申告をしていない人
遺産分割協議がまとまらないなどの理由で申告期限を過ぎてしまった場合や、そもそも相続税がかからないと思い込んでいた場合でも、税務署は不動産の登記情報や預貯金の異動情報などから、相続があった事実を把握しています。
過去の不動産所得等の申告との差異が大きい人
過去の所得申告(特に不動産の家賃収入など)と比べて相続財産の内容に大きな違いがある場合、申告漏れを疑われる可能性があります。例えば、過去に多額の不動産所得があったにもかかわらず、相続財産として現金や預金がほとんど残っていないようなケースです。
相続税の申告漏れが指摘されやすい項目
国税庁の調査によると、相続税の申告漏れで指摘されることが多い項目には、特定の傾向が見られます。令和5事務年度(令和5年7月~令和6年6月)の申告漏れ財産の構成比は、
(1)現金・預貯金:63.9%
(2)有価証券:4.4%
(3)土地:3.2%
(4)家屋:1.4%
(5)その他:17.0%
となっています。
このデータからもわかるように、現金・預貯金が最も多く、申告漏れの約3分の2を占めています。では、具体的にどのような申告漏れが起きやすいのでしょうか。
①現金・預貯金
現金は、亡くなった方が自宅の金庫などに保管していた「タンス預金」や、家族名義の口座に預けていた「名義預金」などが申告から漏れてしまうケースが多く見られます。
タンス預金
タンス預金は、相続人がその存在を知らなかったり、少額だと思って申告しなかったりすることがあります。しかし、税務署は、亡くなった方の生前の預金引き出し履歴などから、不自然な現金の動きを把握しています。特に、相続開始前に預金が多額に引き出されている場合、その現金の使途について厳しく確認されます。タンス預金をすること自体に問題はありませんが、相続の際に漏れることのないように注意が必要です。
名義預金
名義預金は、亡くなった方が生前に、ご家族の口座に資金を移し替えていた場合などが該当します。たとえ口座の名義が家族になっていても、そのお金を実質的に管理していたのが亡くなった方であれば、その預金は相続財産として申告しなければなりません。しかし、このルールを知らずに申告から漏れてしまうケースが非常に多いです。
②有価証券
有価証券の申告漏れには、複数の原因が考えられます。
名義預金と同様のケース
亡くなった方が家族名義で株や投資信託を保有していた場合、名義預金と同様に申告から漏れてしまうことがあります。
保有口座の把握漏れ
亡くなった方が複数の証券会社に口座を持っていたり、特定口座や一般口座、NISA口座など複数の区分で保有していたりする場合、相続人が全ての口座を把握できず、申告漏れにつながることがあります。
非上場株式の評価誤り
非上場株式は公的な価格がないため、専門的な知識がないと適正な評価を行うことが困難です。誤った評価方法で申告し、過小評価と指摘されるケースが多く見られます。
③土地の評価誤り
土地の評価は、専門的な知識が必要なため、申告誤りが起きやすい項目です。特に、以下のケースで過小評価が指摘されることがあります。
広い土地の評価の誤り(地積規模の大きな宅地の評価)
広大な土地は評価額を減額できる制度がありますが、その要件を満たしていないにもかかわらず、減額された評価で申告してしまうケースがあります。
道路に面していない土地の評価の誤り(無道路地評価)
道路に面していない土地は、通路を確保するために必要な費用を考慮して評価額を下げることができますが、適切でない減額率を適用してしまうケースがあります。
いびつな形の土地の評価の誤り(不整形地評価)
長方形や正方形でないいびつな形の土地は評価額が下がりますが、減額率の計算を誤ってしまったり、適用すべきでない土地に適用してしまったりするケースがあります。
土地の評価は非常に複雑で、ひとつひとつの土地の形状や利用状況によって評価方法が大きく変わるため、自己判断で行うと、思わぬ申告漏れにつながることがあります。
④贈与財産加算漏れ
相続税の申告では、相続が発生する前の一定期間に行われた贈与は、相続財産として加算して申告する義務がありますが、この期間の贈与を申告し忘れてしまうケースが非常に多いです。なお、この期間は2024年の税制改正により3年間から7年間へと段階的に延長されました。
また、暦年贈与を長年にわたって行っていた場合や、いくら贈与するのかという取り決めをあらかじめ交わしてしまっていた場合、税務署は暦年課税として毎回贈与したのではなく、一括で贈与したとみなすことがあります。この場合、申告していない贈与税が追徴されるだけでなく、相続税の申告漏れとしても指摘されます。
さらに、亡くなった方の預金口座から家族の生活費や学費を支払っていた場合も、生前贈与とみなされ、申告漏れとして指摘される場合があります。内容や金額によっては上記の贈与も認められるため、状況に応じて適切な判断が必要となります。相続時精算課税制度についても改正が行われたため、ご心配な場合は税理士に相談されるのがよいでしょう。
⑤生命保険契約に関する権利
生命保険は、誰が保険料を払い、誰が被保険者で、誰が保険金を受け取るかという関係性によって、相続税だけでなく、所得税や贈与税の課税対象にもなり得ます。
例えば、亡くなった方が自身の保険料を負担しているとき、死亡した場合の保険金の受取人が子である場合、保険金は「みなし相続財産」として相続税の課税対象になります。
しかし、亡くなった方以外の人が保険料を負担している場合、保険金は相続財産とはならず、贈与税や所得税の課税対象となります。この関係を誤解し、申告を怠ってしまうケースが指摘されやすい項目です。
まとめ
相続税の税務調査は、他の税目に比べて非常に高い確率で実施されます。今回挙げた「現金・預貯金」「有価証券」「土地」「贈与」「生命保険」の5項目は、申告漏れが起きやすい内容です。
しかしこれらの申告漏れは、正しい知識をもって申告すれば防ぐことができるものです。相続財産の種類が多い場合や複雑な評価が必要な財産がある場合は、自己判断に頼らず専門家である税理士に相談することをお勧めします。専門家の力を借りることで、正確な申告を行い、安心して相続手続きを進めることができるでしょう。
